ミキ親衛隊の数人は、後ろ手に縛られたままその蜘蛛の巣に張り付けられていた。また数人は、縛られたままこの糸で天井から吊り下げられていた。人ひとりを吊り下げても切れる事は無い、本当に強固な糸である。
「み....ミキさまっ!.....うっ..うんっ!」
縛られた体で尺取虫の様に這って、サトミがミキに近づいて来る。ミキとサトミは蜘蛛の巣や天井に張り付けられてはいないので、まだ動く事ができる。もっとも、厳しく後ろ手高手小手に縛り上げられて、膝と足首まで縛られていては満足に動く事はできないが....
「ミキさま.....こ...これで......んっ...えいっ!」
サトミは半身を起こし、脚をミキの方に向た体勢で座り直す。そして縛られた両脚を高く上げ、思い切りかかとを床に叩き付ける。すると、彼女のブーツのつま先から、鋭利な刃が飛び出す。本来は敵の攻撃する為の暗器だが、この場合は糸を切る為の非常用ナイフとなる。
「さ...サトミ!....んふんっ!.....わ..わかったわっ!」
ミキは少し這ってサトミに近づき、半身を起こす。そしてサトミに背中を向け、縛られた後ろ手をサトミの靴の先に近づける。
「んっ!.....んふっ!」
サトミは、ミキがやり易い様に両脚を少し高く上げる。
「あん!......んっ!.....うん!.....ふうんっ!」
ミキは刃物に後ろ手首の糸を押し当て、上下に動かす。刃物が多少手首にも当たる為、手首が切れて痛みが走る。
「いたっ!....んっ!......はんっ!....んんっ!」
それでも、この後ろ手縛りから抜け出す為、懸命に手首を刃物に擦りつけるミキ。だが.....
「あん!.....だ...だめです!ミキさまっ!....ま..全く切れていませんっ!」
「な...なんですって?!....そ...そんな....あんっ!」
この糸は弾力性も高く、刃物で切断する事もできなかった。絶望に打ちひしがれ、ミキはまたその場に倒れ込んでしまう。そしてサトミも、同様に倒れ込む。
「ど....どうすればいいの?.....あん!た....助けて!ドクター!....な...ナーワーさまあっ!」

ナーワーの間では、ミキ達が苦闘している様子を、じっとドクター達が観察していた。
「.....いかがです?.....中々面白い糸でしょう?」
無言のドクター達に、ちょこるが問い掛ける。
「......うむ.....こ...この蜘蛛を大量に街に放つのか?」
ようやく、ドクターが口を開く。
「いえ.....生憎、この蜘蛛は一匹しか生成できておりませんので......」
「そ....それでは意味が無いではないかっ!たった一匹で何ができる?!」
リュウが、再び罵声を浴びせる。が、ちょこるは至って冷静で、しばしの沈黙の後に口を開く。
「........この一匹を、ファンタジー・ベースに放つのです!」
「なっ?!」
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