そう言って、マントの中から握った左手を差し出し、顔の手前でその手を開く。掌には、当然の如くあの蜘蛛が乗っている。その時、強い風が吹いて蜘蛛が吹き飛ばされる。上空高く飛ばされた蜘蛛は、お尻から糸を噴き、それを使ってうまく風に乗って、ファンタジー・ベースの壁に取り付いた。そして、素早く壁を這って、排気口から建物の中へ入って行った。
ファンタジー・ベース内には、いつでも泊り込みが出来る様に人数分の寝室が設けられていた。この時間はまゆみと華汝が指令室で番をし、ゆうかと桜は寝室で仮眠を取っていた。
もっとも、桜は寝付けず、地下のトレーニングルームに行っていた。
寝室では、ゆうかがベットで気持ち良さそうに寝入っていた。何か良い夢でも見ているのか、時々笑みを浮かべながら。その部屋の壁の上隅、通気口から先程の蜘蛛が這い出して来る。蜘蛛は見る見る内にゆうかの真横の壁に到達し、ゆうかに向かって糸を噴き始めた.......
指令室では、まゆみと華汝が館内をモニターで監視していた。全部で9画面あるモニターは定期的に画像を切り替えて、ファンタジー・ベース内及び屋外の周辺部を映していた。といっても、そうそう変化がある物ではないので常に凝視している訳では無く、雑談をしながら時折モニターを眺める程度であった。
「.....あら?........」
ふと、華汝がモニターの異変に気付いた。ひとつのモニターが、時折何も映らない真っ白な画面を表示しているのだ。
「変ね?.....何処かモニターが故障したのかしら?」
華汝はモニターの切り替えをマニュアル操作に変え、真っ白な画面が出る部屋に固定させる。
「?......ゆうかの寝室だわ?......いったいどうして?......」
華汝は、ゆうかの寝室の呼び出しボタンを押す。各部屋には、指令室との連絡用の回線が引かれている。
「ゆうか!......聞こえる?......何かあったの?........」
しかし、いくら待っても何の返答も帰って来なかった。こちらにも会話用のカメラが設けられているが、その映像も真っ白な画面しか映らなかった。
「.....変ね?!......本当に何かあったんじゃ.......ちょっと見てくるわ!」
そう言って、華汝は部屋を出ようとする。
「待って!!」
その華汝を、まゆみが呼び止める。
「何があるか分らない.....念のため、変身しておきましょう!」
「え.....うん、そうね!」
まゆみと華汝は、携帯用自縛装置を取り出す。そして、右手にそれを持ち、両手を後ろに回して背中で組む。親指でボタンを押すと、反対側から細い縄が飛び出し、二人の手首に絡み付いて行く。こうして、まゆみと華汝は後ろ手に縛り上げられる。
「シバラレ・チェンジ!!」
縛り上げられた直後に、二人は揃って声を上げる。その声に反応して、二人の首に掛かっているペンダントが激しい光を放つ。光はたちまちのうちに二人を包み込み、更に激しく輝く。閃光の後徐々に光は弱まって、その中から赤いレオタードスーツと、水色のレオタードスーツに身を包んだ二人の女戦士が現れる。
「じゃあ、行ってくるわ!」