のりこの視線とその右手の先は、確実に蜘蛛の姿を捕らえていた。蜘蛛は、丁度糸を噴出す寸前だった。が、その噴出される先には既にのりこは居ない。“仕留めた!!”のりこはそう確信した。ところが.....
「あっ!....あんっ!!」
突然何かに絡まり、のりこの動きが止まってしまう。
「あん!...どうなってるの?.....ああんっ!!」
もがけばもがく程、動きが封じられて行く。そう、のりこが飛んだ先に、細い蜘蛛の巣が張られていたのだ。この勝負、蜘蛛の方が一枚上手であった。のりこが一撃必殺を狙って来るのを予測して、事前に近づかなければ見えない程の細い蜘蛛の糸を張っておき、わざとのりこがその方向に跳ぶ様に仕向けたのだ。
「あん!....んっ....ふんっ!」
懸命にもがくのりこだが、もう蜘蛛の巣に捕らえられた蝶の如く、全く身動きが取れない。そこへ、蜘蛛は壁を伝って近づいて来る。
「や....やめてっ!....こ...来ないでっ!」
のりこの願いは聞き届けられる筈も無く、蜘蛛はどんどんのりこに近づいて来る。

「い.....イプシロン!ま...マジックハンドを出してっ!」
通路では、胡摩が糸を解こうと悪戦苦闘していた。イプシロンのマジックハンドの先をナイフに変え、それで糸を切ろうとしていた。
「ん.....んんっ!.....だ....だめっ!き...切れない.....」
しかし、どんなにナイフで切ろうとしても、糸はその応力で変形するだけで切れ目ひとつ付かない。
「あっ?!.....」
そこに、また糸が噴き付けられ、イプシロンが見る見る蜘蛛の巣まみれになっていく。のりこを縛り終えた蜘蛛が戻って来たのだ。イプシロンの次は胡摩に取り付き、彼女の背中に回り込む。
「?!.....な.....何を?......」
戸惑う胡摩を他所に、蜘蛛はまゆみ達にしたのと同じ様に胡摩の手首に糸を巻きつける。そして、例の霧状の液体を噴き付ける。
「あっ!.....あんっ!!」
胡摩の両手首は後ろ手高手小手に捩じ上げられ、更に糸を噴き付けられて厳しく後ろ手高手小手に縛り上げられてしまう。
「ああん!だ.....だめっ!か...完全に後ろ手に縛られちゃった.....あんっ!」
これで胡摩も、完全に成す術が無くなってしまった。唯々、虚しくもがき続けるしか無かった。

その頃、指令室ではまゆみと華汝がモニターを通して、のりこと胡摩が縛り上げられてしまう様子を見せられていた。モニターは定期的に館内の各所に切り替わる為、のりこ達の侵入から縛られるまでの全ての過程が、断片的にではあるが映されていた。
「ああん!.....の...のりこまで....」
「だ...だめっ!み...みんな縛られちゃう!....」
後ろ手に縛られ、天井から吊るされた体を捩りながら、まゆみと華汝は落胆の声を上げる。
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